現代社会は、スマートフォン、自動車、家電、産業機器に至るまで、「組み込みシステム(エンベデッドシステム)」によって支えられています。目に見えないところで動作し、私たちの生活を安全かつ便利にしているこれらのシステムの設計・開発は、極めて高度な専門知識とスキルを要求されます。
その組み込みシステム開発の現場で、最高峰の技術者であることを証明するのが、情報処理技術者試験の最難関レベルであるスキルレベル4に位置づけられる国家試験、「エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES)」です。
本記事では、このES試験がなぜ重要なのか、試験の概要、求められる知識・スキル、受験を志す皆さんが知りたい情報を徹底的に解説します。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験とは
エンベデッドシステムスペシャリスト試験(ES試験)は、IPA(情報処理推進機構)が実施する情報処理技術者試験の高度区分(レベル4)に位置づけられる国家試験です。
主に、組込みシステム(エンベデッドシステム)の設計・開発・管理に関する高度な知識と実務能力を評価することを目的としています。
組込みシステムとは、家電製品、自動車、産業機械、医療機器、IoT機器など、特定の機能を実現するためにハードウェアとソフトウェアを組み合わせたシステムのことです。現代社会において、組込み技術はあらゆる分野で不可欠な存在となっており、その専門家の需要は年々高まっています。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験は、そうした組込み技術の中核を担うエンジニアであることを客観的に証明できる、非常に価値の高い資格です。
求められるスペシャリスト像
IPAの定義するESの合格者は、以下のような能力を持つことが期待されます。
- システム要求の分析・設計能力: リアルタイム性、省電力、高信頼性、安全性といった組み込み特有の要求を理解し、最適なシステム構成を設計できる。
- ハードウェアとソフトウェアの連携: CPU、メモリ、バス、I/Oといったハードウェア構成と、OS、ドライバ、アプリケーションといったソフトウェア要素を統合的に理解し、最適な実装ができる。
- 専門技術の応用力: 制御理論、ディジタル回路、OS(RTOS含む)、セキュリティ、機能安全(ISO 26262など)に関する知識を実際の開発に適用できる。
- プロジェクト遂行能力: 開発プロセス全体を理解し、リーダーシップを発揮してプロジェクトを成功に導くことができる。
簡単に言えば、「組み込みシステム開発の全体像を見渡し、技術的課題を解決できる最高レベルの技術者」の証明となるのがES試験なのです。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験の資格試験について
分類
国家資格
受験資格
誰でも受験できます。
申込期間
1月中旬
申込方法
インターネットで申し込むことができます。
試験日
4月
合格発表
6月中旬
受験料
7,500円
試験地
全国主要都市
試験内容
試験方式
| 時間 | 形式 | 問題数 | |
|---|---|---|---|
| 午前Ⅰ | 50分 | 多肢選択式 | 30問 |
| 午前Ⅱ | 40分 | 多肢選択式 | 25問 |
| 午後Ⅰ | 90分 | 記述式 | 3問中、2問を選択して回答 |
| 午後Ⅱ | 120分 | 論述式 | 3問中、1問を選択して回答 |
午前Ⅰの出題範囲
応用情報技術者試験の午前試験の出題範囲と同様
午前Ⅱの出題範囲
| 分野 | カテゴリ |
| テクノロジ系 | コンピュータ構成要素 システム構成要素 ソフトウェア ハードウェア ネットワーク セキュリティ システム開発技術 ソフトウェア開発管理技術 |
| ストラテジ系 | ビジネスインダストリ |
午後の出題範囲
| 分野 | カテゴリ |
|---|---|
| 組込みシステムの設計・構築に関すること | IoT を含む関連技術の動向及び適用可能性を基にした開発システムの機能要件の分析、機能要件を満足させるハードウェアとソフトウェアのトレードオフ、ソフトウェア要求仕様・ハードウェア要求仕様の把握、システムアーキテクチャ設計 など |
| 組込みシステムのソフトウェア設計に関すること | IoT を含む関連技術の適用可能性の吟味とプラットフォームの利用、リアルタイム OS の応用、デバイスドライバの設計、タスク設計、共有資源設計、ソフトウェアの実装及びそれらを行うプロセスとしてのソフトウェア要求仕様の吟味 など |
| 組込みシステムのハードウェア設計に関すること | IoT を含む関連技術の適用可能性の吟味とプラットフォームの利用、ハードウェア要求仕様の分析、MPU 又は MCU の選択、システム LSI の吟味、高位ハードウェア設計言語の活用、ハードウェアアーキテクチャの設計、メモリ階層の設計 など |
| 保守に関すること | IoT を含む関連技術の適用可能性の吟味、ソフトウェア仕様書・ハードウェア設計書に基づく保守容易化設計、保守計画の作成、リモートメンテナンス、状態監視保守、定期保守、保守作業の記録と構成管理 など |
合格率
17%前後
勉強時間・勉強方法
勉強時間
400~500時間
勉強方法
独学でも可能ですが、通信講座などスクールで勉強した方が効率的に勉強を進めることが出来ます。
エンベデッドシステムスペシャリスト試験の書籍
エンベデッドシステムスペシャリスト試験の書籍を以下のリンクから検索することができます。
役立つサイト
- 独立行政法人 情報処理推進機構
主催団体のサイトです。試験の最新情報をチェック出来ます。
組み込み技術者の最高峰へ
エンベデッドシステムスペシャリスト試験は、その難易度ゆえに、挑戦をためらう人もいるかもしれません。しかし、組み込みシステムという社会の根幹を支える技術分野において、最高レベルの知識とスキルを持つことは、計り知れない価値を生み出します。
合格までの道のりは決して楽ではありませんが、この資格を取得した暁には、日本の、そして世界の最先端技術をリードする技術者としての自信とキャリアを手に入れることができるでしょう。

