ITサービスの安定稼働は、現代の企業活動において「空気のように当たり前で、しかし欠かせない存在」です。システムが止まれば業務は止まり、顧客体験は損なわれ、企業の信頼性にも影響します。その“当たり前”を支えるのが、ITサービスマネージャという専門職です。
本記事では、IPAが実施する高度情報処理技術者試験の一つであるITサービスマネージャ試験(SM)について、役割・難易度・メリットまで深掘りします。
ITサービスマネージャ試験とは
IPA(情報処理推進機構)が実施する高度試験(レベル4)の一つで、ITサービスの計画・設計・運用・改善を統括できる人材を認定する国家資格です。
試験の英語名称は Information Technology Service Manager Examination。 略号は SM と呼ばれます。
IPAはこの資格を次のように位置づけています。
- サービス要求を満たすための計画・設計・移行・提供・改善を指揮する
- 運用チームをリードし、安全性と信頼性の高いサービスを提供する
- 顧客との合意形成や満足度維持を担う
- 新規サービスや変更管理を主導する
つまり、単なる運用担当者ではなく、ITサービス全体の品質・コスト・リスクをマネジメントする責任者です。
なぜ今、ITサービスマネージャが求められるのか?
現代のビジネスにおいて、ITは単なる業務効率化ツールではなく、企業競争力の源泉となっています。クラウド、AI、IoTといった新技術の導入が進む一方で、それらを支えるITサービスの安定稼働と品質維持は、事業継続の生命線です。
サービスの複雑化と重要性の増大
システムが複雑化し、依存度が高まるにつれて、万が一のサービス停止や品質低下が企業に与える損害は甚大になります。ITサービスマネージャは、このようなリスクを最小限に抑え、常に最高のサービスレベル(SLA)を顧客に提供するための、計画、実行、監視、改善を一手に担う責任者です。
ITILなどのベストプラクティス実践の核
ITサービスマネジメントの国際的なベストプラクティスであるITIL(Information Technology Infrastructure Library)の知識は、この試験の中核をなします。ITサービスマネージャは、ITILの考え方に基づき、インシデント管理、問題管理、変更管理、構成管理などのプロセスを組織内に浸透させ、サービス提供体制を最適化します。
ビジネス価値の創出への貢献
単にシステムを「動かす」だけでなく、ビジネス部門と連携し、ITサービスを通じていかにビジネス価値を最大化するかという視点が求められます。安定したサービス基盤は、新しいビジネス展開やデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させる土台となるのです。
どんな人におすすめの資格か
ITサービスマネージャ試験は、以下のような方に特におすすめです。
- IT運用・保守部門でリーダーや管理職を目指している
- システム運用からマネジメント側へステップアップしたい
- ITILやサービスマネジメントを体系的に学びたい
- 顧客・利用部門との折衝力を強化したい
- 社内外で「運用のプロ」として評価されたい
現役エンジニアだけでなく、運用設計担当、情シス、ITコンサル、SRE、サービス管理責任者にも非常に相性の良い資格です。
ITサービスマネージャ試験の資格試験について
分類
国家資格
受験資格
誰でも受験できます。
申込期間
1月中旬
申込方法
インターネットで申し込むことができます。
試験日
4月
合格発表
6月中旬
受験料
7,500円
試験地
全国主要都市
試験内容
試験方式
| 時間 | 形式 | 問題数 | |
|---|---|---|---|
| 午前Ⅰ | 50分 | 多肢選択式 | 30問 |
| 午前Ⅱ | 40分 | 多肢選択式 | 25問 |
| 午後Ⅰ | 90分 | 記述式 | 4問中、2問を選択して回答 |
| 午後Ⅱ | 120分 | 論述式 | 3問中、1問を選択して回答 |
午前Ⅰの出題範囲
応用情報技術者試験の午前試験の出題範囲と同様
午前Ⅱの出題範囲
| 分野 | カテゴリ |
| テクノロジ系 | セキュリティ |
| ストラテジ系 | システム戦略 システム企画 経営戦略マネジメント 技術戦略マネジメント ビジネスインダストリ 企業活動 法務 |
午後の出題範囲
| 分野 | カテゴリ |
|---|---|
| 業種ごとの事業特性を反映し情報技術(IT)を活用した事業戦略の策定に関すること | 経営戦略に基づく IT を活用した事業戦略の策定、IT によるビジネスモデルの開発提案、業務改革の企画,新製品・サービスの付加価値向上の提案、システムソリューションの選択、アウトソーシング戦略の策定 など |
| 業種ごとの事業特性を反映した情報システム戦略と全体システム化計画の策定に関すること | 業務モデルの定義、情報システム全体体系の定義、情報システムの開発課題の分析と優先順位付け、情報システム基盤構成方針や標準の策定、システムソリューション適用方針の策定(ERP パッケージの適用ほか) など |
| 業種ごとの事業特性を反映した個別システム化構想・計画の策定に関すること | システム化構想の策定、業務のシステム課題の定義、業務システムの分析、業務モデルの作成、業務プロセスの設計、システム化機能の整理とシステム方式の策定、システム選定方針の策定(システムソリューションの適用ほか)、全体開発スケジュールの作成 など |
| 事業ごとの前提や制約を考慮した情報システム戦略の実行管理と評価に関すること | 製品・サービス・業務・組織・情報システムの改革プログラム全体の進捗管理、情報システム基盤標準やシステムに関する品質管理標準の標準化推進、改革実行のリスク管理と対処、システムソリューションの適用推進、システム活用の促進 など |
| 組込みシステム・IoT を利用したシステムの企画,開発,サポート及び保守計画の策定・推進に関すること | 通信・情報・アーキテクチャ・ヒューマンインタフェース・ストレージ・半導体・計測・制御・プラットフォームなどの技術動向分析、製品市場動向・社内技術評価などを踏まえた製品戦略策定 など |
合格率
15%前後
勉強時間・勉強方法
勉強時間
100~150時間程度
勉強方法
独学でも可能ですが、通信講座などスクールで勉強した方が効率的に勉強を進めることが出来ます。
ITサービスマネージャ試験の書籍
ITサービスマネージャ試験の書籍を以下のリンクから検索することができます。
役立つサイト
- 独立行政法人 情報処理推進機構
主催団体のサイトです。試験の最新情報をチェック出来ます。
IT運用の価値を高めたい人に最適な資格
ITサービスマネージャ試験は、ITを「使われ続けるサービス」として成功させるための資格です。
派手さはないかもしれませんが、企業にとって最も重要な「安定」「信頼」「継続」を支える存在として、ITサービスマネージャの価値は年々高まっています。
- 運用・保守の経験をキャリアに変えたい
- マネジメント力を客観的に証明したい
- IT人材として一段上のステージに進みたい
そう考えている方にとって、ITサービスマネージャ試験は間違いなく挑戦する価値のある資格です。

